2024年11月、52年もの長い歴史に幕を下ろした「イトーヨーカドー春日部店」。あの思い出の詰まった跡地に、合計で約460戸(想定)の大型分譲マンションが建設されることが正式に決まりました。
アニメ「クレヨンしんちゃん」に登場する「サトーココノカドー」のモデルとして、多くのファンや市民にとって「聖地」のような特別な場所でしたね。閉店のニュースでは、遠方からも人々が訪れ、別れを惜しむ声がたくさん聞かれました。「あの場所は、これからどうなってしまうんだろう?」と、大きな寂しさと、少しの不安を感じていた方も多いのではないでしょうか。
この記事では、東武鉄道や大和ハウス工業、東レ建設、相鉄不動産の4社が発表した新しい計画の詳細と、それが私たちの街「春日部」の未来にどう繋がっていくのかを、専門的な言葉は使わずに、一つひとつ丁寧に解説していきます。
「聖地の思い出」はどこへ行くのか、そして「新しい春日部の未来」はどうなるのか。この記事を読めば、あなたの「知りたい」と「気がかり」のすべてが分かります。
速報 イトーヨーカドー春日部店跡地は、合計460戸の「新たな暮らしの拠点」へ
まずは、今回発表された計画の「事実」から、詳しくお伝えします。
今回の計画では、旧イトーヨーカドーの店舗があった敷地(B敷地)と、その近くにあった駐車場(A敷地)の2カ所に、それぞれ15階建ての共同住宅(マンション)が建設されます。
多くの人が気になっている「いつ工事が始まって、いつ完成するの?」という疑問にも、具体的なスケジュールが示されました。計画は2段階に分かれており、まずは駐車場だった「A敷地」から先に建設がスタートする方針です。
発表された2棟の計画の概要を、分かりやすく表にまとめました。
(仮称)春日部市中央1丁目計画 概要

| 項目 | A敷地(旧駐車場) | B敷地(旧イトーヨーカドー店舗跡地) |
| 計画名 | (仮称)春日部市中央1丁目計画(A敷地) | 同(B敷地) |
| 所在地 | 中央1-14-10ほか | 中央1-13-1ほか |
| 敷地面積 | 2,294㎡ | 6,007㎡ |
| 規模 | RC造 15階建て | RC造 15階建て |
| 延床面積 | 1万0377㎡ | 2万7635㎡ |
| 総戸数(想定) | 129戸 | 331戸 |
| 着工(予定) | 2026年8月末 | 2027年4月末 |
| 竣工(予定) | 2028年11月17日 | 2029年11月16日 |
| 設計・施工 | 長谷工コーポレーション | 長谷工コーポレーション |
(出典:発表された建設計画の情報を基に作成)
このスケジュールには、デベロッパー側の合理的な事業戦略がうかがえます。
まず、A敷地(旧駐車場)は更地化が容易であり、面積もB敷地(旧店舗跡地)の約3分の1です。一方で、B敷地は52年間(旧店舗時代を含む)続いた大型店舗の解体が必要で、地下の基礎や杭の撤去など、更地化に時間がかかる可能性があります。
そのため、まず建設の難易度が低いA敷地(129戸)で2026年夏に着工し、2028年秋の竣工を目指します。そして、A敷地の建設が進む一方で、B敷地(331戸)の解体と準備を並行して進め、2027年春に着工します。
このように、2つの工事を効率的に進めることで、春日部駅西口に2029年末までには、合計460世帯が暮らす、まったく新しい街並みが誕生する予定です。
「サトーココノカドー」の思い出は? あの“聖地”はどうなったの?

「跡地がマンションになるのは分かった。でも、私たちの『サトーココノカドー』の思い出はどうなるの?」
これが、多くの市民やファンが抱く、一番の気がかりかもしれません。
結論からお伝えすると、ご安心ください。あの「聖地」のシンボルたちは、新しい場所で大切に「お引越し」し、今も私たちを迎えてくれています。
イトーヨーカドー春日部店は、単なる地域のスーパーマーケットではありませんでした。1972年の開店から、形を変えつつも52年間、春日部のシンボルであり続けました。特に、人気アニメ「クレヨンしんちゃん」に登場する「サトーココノカドー」のモデルとして、春日部が舞台であることを全国、いえ世界中に発信する「聖地」でした。
だからこそ、閉店に伴い「あのモニュメントや壁画はどうなってしまうのか」と、多くの方が心配していました。
その声に応え、春日部市が動きました。2025年1月、店内に設置されていた『クレヨンしんちゃん』のキャラクターモニュメントや壁画は、市内の2つの施設へと無事にお引越ししたのです。
- 移設先①:春日部市役所旧店舗の3階やエスカレーター下にあった、野原一家の一員「シロ」のモニュメントや、しんちゃんたちの「壁画バナー」が設置されました。市役所には元々、他の野原一家のモニュメントがあり、今回の移設でついに勢揃いとなりました。
- 移設先②:春日部情報発信館「ぷらっとかすかべ」しんちゃんとひまわりのモニュメントが、ファンにはおなじみの「サトーココノカドー」のパネルを背景に設置されました。ここでは、以前のように「聖地」の記念撮影をすることができます。
この一連の動きは、非常に重要な意味を持っています。
通常、一つの民間企業(イトーヨーカドー)の店舗備品が、行政(市役所)や観光協会(ぷらっとかすかべ)によって、ここまで手厚く保存されることは稀です。
これは、春日部市が「サトーココノカドー」という存在を、単なるアニメの舞台ではなく、春日部市の魅力を発信する重要な「文化的・観光的な資産」として公式に認めたことを示しています。
そして、市は「イトーヨーカドー跡地」という“土地の未来”と、「サトーココノカドー」という“文化的な聖地の記憶”を、意図的に切り分けて、両方を守るという賢明な選択をしました。
これにより、ファンは安心して「聖地巡礼」を継続でき、土地の所有者である東武鉄道や大和ハウス工業は、“聖地を壊した”というネガティブな印象を負うことなく、未来に向けた新しい開発に進むことができます。
つまり、跡地は新しい「暮らしの場」へ、そして「思い出」は新しい「聖地」へと、それぞれが進化して春日部にあり続けているのです。
なぜ今?この開発の背景にある、春日部市の「大きな未来図」
「それにしても、なぜあの場所に460戸もの巨大マンションなのだろう?」
「イトーヨーカドーがなくなっただけなら、また別のお店が入っても良かったのでは?」
そう思われる方もいるかもしれません。
今回のマンション計画は、単なる「閉店した場所の建て替え」という単純な話ではありません。これは、春日部駅周辺が「もっと便利で、歩きやすい街」に生まれ変わるための、春日部市が描く「未来図」の、最も重要なピースなのです。
実は今、春日部駅周辺では、このマンション計画の背景に、2つの非常に大きな事業が同時に動いています。
- 「中央一丁目地区第一種市街地再開発事業」:今回のイトーヨーカドー跡地を含む、駅西口エリア全体の街づくり計画です。
- 「春日部駅付近連続立体交差事業(鉄道高架化)」:東武線の線路を高架にして、たくさんの「開かずの踏切」をなくす計画です。
この2つが、今回のマンション計画と深く関わっています。
まず、春日部市はイトーヨーカドーの閉店が発表されるよりずっと前、2022年3月(令和4年)の段階で、このエリアの「まちづくり方針」を策定していました。
その方針の中では、当時の春日部駅西口エリアの課題として、「訪れたくなる魅力」や「ゆったり過ごせる場」が不足していること、そして「まちのスポンジ化」が進んでいることが挙げられていました。「スポンジ化」とは、建物の老朽化や更新が進まず、一時的な利用(例えば、青空駐車場など)のまま放置される土地が増え、街の活力が失われていく状態を指します。
まさに、今回の計画の「A敷地」は、その課題であった「青空駐車場」そのものでした。
市がこうした課題意識を持っていた矢先、2024年に、このエリアで最も巨大な建物であったイトーヨーカドーの閉店が決定しました。これは、市にとって「街のスポンジ化」という観点で、駅前に「最大の“空洞”が生まれてしまう」という危機的状況の到来を意味しました。もしあの広大な敷地(B敷地:6,007㎡)が、次の使い道が決まらないまま長期間放置されていれば、街の活力や魅力は一気に低下していたでしょう。
だからこそ、東武鉄道、大和ハウス工業、東レ建設、相鉄不動産という4社連合による今回の460戸のマンション計画は、春日部市が最も恐れていた「駅前の巨大な空洞化」を防ぐ、起死回生の一手なのです。
これは、行政やデベロッパーが一方的に決めた計画ではありません。市の「まちづくりニュース」が2022年(令和4年)6月の創刊号から2024年(令和6年)7月の第7号まで、継続的に発行されていることからも分かります。この間、地元の土地・建物の権利者の皆さんが「権利者の会」を何度も開催し、2年以上にわたって「自分たちの街をどうしていくか」という議論を重ねてきました。
私たちが目にするこの「マンション建設」は、春日部市と地元の人々が「スポンジ化」という危機を乗り越え、未来への「投資」として進めている、大切なプロジェクトなのです。
春日部駅の「高架化」と「マンション」の“本当の関係”

そして、なぜこれほどの大企業が、460戸という大規模な「投資」を、このタイミングで決めたのか。
その最大の理由であり、このマンションの「将来価値」に直結するのが、先ほど挙げたもう一つの巨大事業、「春日部駅の鉄道高架化」です。
「春日部駅付近連続立体交差事業」は、東武スカイツリーラインと東武アーバンパークラインの線路を高く持ち上げ(高架化)、現在10カ所ある踏切をすべて無くしてしまうという、埼玉県、春日部市、東武鉄道が進める一大プロジェクトです。
現在、春日部駅ではそのための工事が着々と進んでおり、仮の線路やホームへの切り替えが順次行われています(例:2024年5月に伊勢崎線仮上り線が供用開始、2025年10月には仮下りホームが供用開始予定)。
この高架化工事が完成すると、春日部の街は劇的に変わります。
- 「開かずの踏切」がなくなり、駅の東西を車がスムーズに行き来できるようになります。
- そして何より、線路という「壁」で分断されていた駅の東口と西口が、地続きでつながります。
市の「まちづくり方針」では、この高架化によって新しく生まれる地上の空間(高架下など)と、駅前広場を一体的に整備し、「歩行者優先エリア」を創出することが目標とされています。車を気にせず、安全で快適に「歩いて楽しい」街(ウォーカブルな街)を目指しているのです。
ここで、イトーヨーカドー跡地の「場所」を思い出してください。
あの場所は、まさに「高架化によって新しく生まれる人の流れ」の“ど真ん中”に位置しています。
これまでは「西口の駅前」という位置づけでしたが、高架化によって東西の分断がなくなれば、そこは「新しい春日部駅の“特等席”」に変わるのです。
このマンションが完成する2028年〜2029年末ごろには、春日部駅は今とは比べ物にならないほど「便利で開かれた駅」に変貌している可能性が非常に高いのです。
4社連合という一流企業が、460戸という大規模なプロジェクトに踏み切ったのは、この「100年に一度の街の変化」という、確かな将来性を見込んでいるからに他なりません。
どんな会社が建てるの? 4社連合の「安心感」

イトーヨーカドーという、52年間も街のシンボルだった場所。その大切な跡地を任されるのは、一体どんな会社なのでしょうか。
今回の事業主は「東武鉄道、大和ハウス工業、東レ建設、相鉄不動産」の4社。そして、設計と施工(実際に建物を造る会社)は「長谷工コーポレーション」です。
この顔ぶれは、まさに各分野のプロが集まった「ドリームチーム」であり、プロジェクトへの「本気度」と「安心感」を示しています。
- ①地元の顔(東武鉄道): 言わずと知れた春日部の「地元の主」です。東武線沿線の価値を高めることを使命としており、埼玉県内での住宅開発実績はトップクラスです。近年では、久喜市の南栗橋駅前で大規模な街づくりなど、鉄道と一体となった開発ノウハウが豊富です。
- ②総合力(大和ハウス工業): マンションから戸建て、商業施設、物流施設まで、あらゆる建物を手がける日本を代表する総合デベロッパーです。今回の460戸という大規模プロジェクトを、資金面・技術面で安定して推進できる「体力」と「ノウハウ」を持っています。
- ③品質(東レ建設): 素材メーカーである「東レ」グループの建設会社です。マンションブランドも手がけており、実際の利用者からは「セキュリティの良さ」や「耐震性に優れている」「管理人さんがしっかりしている」など、住まいの「質」や「管理」の面で高い評価を得ている企業です。
- ④沿線開発のプロ(相鉄不動産): 横浜や神奈川エリアを基盤とする、相鉄グループの不動産会社です。相鉄線の沿線で「ゆめが丘」など、鉄道駅と一体となった魅力的な街づくりで多くの実績を持っています。どうすれば「駅前の価値」を最大化できるかを知り尽くしたプロです。
- ⑤建設のスペシャリスト(長谷工コーポレーション): 日本で最も多くのマンションを建設してきた会社の一つです。今回は「設計施工」として、設計(デザイン)から施工(建設)までを一貫して担当します。これにより、品質を高く保ちつつ、効率的で責任のある建設が期待できます。
このように、鉄道系(東武・相鉄)が「街の将来価値」を見据え、住宅系(大和・東レ)が「住まいの品質」を担保し、そして施工(長谷工)が「確実な建設」を担う。大切なシンボルの跡地を任せるのに、これ以上ない強力な布陣と言えるでしょう。
まとめ:失われた「シンボル」から、460家族が暮らす「新しい拠点」へ
この記事でお伝えしてきたことを、最後にもう一度まとめます。
52年の歴史に幕を下ろしたイトーヨーカドー春日部店。通称「サトーココノカドー」の跡地は、2029年末までに、合計460戸の大型マンションとして生まれ変わります。
それは、単なる「建て替え」ではありません。街の「スポンジ化」という危機を乗り越え、春日部市が「鉄道高架化」と「駅前再開発」という未来へ進むための、最も重要な一歩です。
「聖地」のモニュメントは、市役所や「ぷらっとかすかべ」という新たな場所でファンを迎え続け、跡地は460の家族が集う「新たなにぎわいの中心地」となります。解体が進む今の風景は寂しさを伴いますが、その先には「歩いて楽しい、便利な街」という新しい春日部が待っています。
今回の計画は、街の「シンボル」が、多くの人々の「暮らしの拠点」へと形を変える、春日部市の再生ストーリーの始まりなのです。
この記事を読んだ方が、次に知りたいこと(FAQ)
Q1. 新しいマンションの価格や間取りは、いつ分かりますか?
A1. 今回は「建設が始まります」という計画の発表です。そのため、具体的な販売価格や間取り(お部屋のタイプ)の情報は、まだ公開されていません。通常、着工(A敷地は2026年8月予定)の前後から、デベロッパー各社(東武鉄道、大和ハウス工業など)の公式サイトで、少しずつ情報が公開され始めることが予想されます。
Q2. 春日部駅の高架化(線路が上を通る工事)は、いつ終わるのですか?
A2. 非常に大きな工事であり、長い時間がかかります。埼玉県や市の発表によると、現在は仮の線路やホームを作っている段階です(例:2024年5月や2025年10月に仮ホーム供用開始)。すべての工事が終わるまでにはまだ時間がかかりますが、街は着実に新しくなっています。マンションが完成する2029年頃には、駅の姿もかなり変わっていることが期待されます。
Q3. マンションの他に、お店(商業施設)は入らないのですか?
A3. 今回の発表は「共同住宅(マンション)」の計画であり、イトーヨーカドーのような大型の商業施設が併設されるという情報はありません。ただし、市の再開発方針では、街のにぎわい(商業・業務機能)も目指しているため、マンションの1階部分などに地域向けの小規模な店舗(コンビニやクリニック、カフェなど)が入る可能性や、周辺の他の土地で別の商業開発が進む可能性は考えられます。
Q4. 他のイトーヨーカドー跡地はどうなっていますか?
A4. 全国の事例を見ると、さまざまです。別のスーパーマーケット(例えば「ロピア」など)が建物をそのまま利用して入るケースもあれば、春日部のように一度解体して、マンションや複合施設に建て替えられるケースもあります。春日部が「住宅」を選んだのは、それだけ「都心へのアクセスが良いベッドタウン」として、「住みたい街」としての需要が、商業施設以上に高いという証拠とも言えそうです。

