内密出産は、妊娠を周囲に明かせない女性が病院以外には身元を明かさず出産する仕組みで、乳児の遺棄や殺害を防ぐ目的で熊本市の慈恵病院が、国内で唯一、導入しています。この女性は、一時はお腹の赤ちゃんを殺そうとまで思いつめていたと言います・・・。
私が初めて母親になったのは、まだ若く、何も知らない頃でした。その時、私は内密出産を選びました。それは、私にとって最も困難で、同時に最も美しい経験でした。
私の心の中には、常にあなたへの愛が溢れていました。しかし、その愛を言葉にすることができず、それをあなたに伝えることができませんでした。「大好きだよ」という言葉は、私の心の中で何度も何度も反響していましたが、それを口に出すことはありませんでした。
あなたが成長し、自分の道を歩んでいく中で、私はあなたに対する愛情をもっと表現すべきだったと感じています。あなたが必要とする愛と支えを、私が十分に提供できていなかったかもしれません。
しかし、今、私はあなたに伝えたい。「大好きだよ」と。あなたがどれほど私の心を満たしてくれているか、あなたがどれほど私の生活を豊かにしてくれているかを。あなたが私の世界を明るく照らしてくれていることを。
私たち母親は、完璧であることを求められることが多いです。しかし、私たちは人間で、間違いを犯すこともあります。私があなたに対して感じている愛は、その全てを超越しています。それは変わらず、常にあなたを包み込んでいます。
これからも、私の愛をあなたに伝え続けます。「大好きだよ」と。
性的暴行の結果、妊娠。医療機関に足を運ぶも… 「生きる道はもうないのかもしれない」
【はじめに】内密出産とは。国民民主党・愛知県選出参議院議員の、伊藤たかえ さんが解説しています。
「幼少期から父親の身体的、言葉による虐待に耐えてきた。その結果、家族に妊娠を告げることができなかった」
西日本のある地域に住む美咲さん(仮名)。彼女は性的暴行の被害者であり、その結果、妊娠しました。子どもの父親は特定できません。
(Q家族に妊娠を告げたらどうなると思いますか?) 「間違いなく命を奪われるだろう」
生理が予定日を1週間ほど過ぎたとき、美咲さんは妊娠に気づきました。警察に相談することはできず、医療機関を訪れ、医師に中絶を希望したところ、子どもの父親の署名と費用が必要だと告げられ、手術を断念しました。地元の妊娠相談窓口にも助けを求めました。
「『大変だね』とか、『まずは親に話してみて』と言われました。でも、それができないからこそ相談しているのに。もう相談する意味がないと感じました。その時の感情を言葉にするのは難しいですが、もう生きる道はないのかもしれないと思いました」
絶望の淵で、自身と赤ちゃんの命を絶つことを考えた美咲さん
追い詰められた美咲さん(仮名)は、自分自身の命を断つことや、未だ生まれてこない赤ちゃんを殺すことを考えるようになりました。
赤ちゃんを死なせるために過剰摂取をしたり、過度な飲酒や喫煙をしたり、お腹が少し膨らんできたときに自分でお腹を打ったりしました。私なら殺せる、私なら何も苦しまない、という強烈な“アドレナリン”が私を支配していました。最も信頼している友人に、どうすればいいのか、私は逮捕される覚悟で、赤ちゃんを遺棄する覚悟でいる、と打ち明けたとき、彼女は言いました。
『まだ、内密出産ができる場所がある、熊本にこうのとりのゆりかごという施設があるんだよ』と・・・
友人の助言により慈恵病院へ向かい、内密出産で新たな命を迎える
「絶望の淵から一筋の光を求めて、美咲さん(仮名)は慈恵病院へと足を運びました。病院での保護とケアにより、彼女の心情には徐々に変化が見られました。
「お腹に向かって話しかけると、偶然かもしれませんが、赤ちゃんが反応してくれるんです。その瞬間がとても嬉しく、自分自身と赤ちゃんを守る力が湧いてきました」
美咲さんは一時的に病院で過ごし、その後、内密出産を選択しました。
「赤ちゃんの初めての泣き声を聞いたとき、『ごめんね』としか言えませんでした。初めて赤ちゃんを抱いたときも、『ごめんね』が最初の言葉でした。本当はもっと『大好きだよ』と伝えたかったのですが、『産んでしまってごめんね』、『今まで辛い思いをさせてしまってごめんね』という感情が先行しました」 「見るのは辛いですが、それが私の強さになっていくんです」
出産直後に病院職員に撮影してもらった写真です。
美咲さんは困難な決断を下しましたが、赤ちゃんの幸せを最優先に考え、特別養子縁組を選びました。この赤ちゃんは、熊本市の児童相談所に一時保護され、その後、特別養子縁組を前提として里親の元へと託されました。
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内密出産の選択から得た教訓と伝えたいメッセージ
美咲さん(仮名)は現在、故郷に戻り、以前の生活を再開していますが、一つの事実に心を痛めています。
「乳児の遺棄事件がニュースになるたび、それが私の視界に強く焼き付きます。最近はそのような事件が増えており、言葉を失います」
日本全国で頻繁に報道される乳児の遺棄や殺害のニュース。孤立し、追い詰められて事件を起こした女性たちに、美咲さん自身の過去を重ねています。
「彼女たちを助けられなかったことが、とても悔やまれます。私も同じ絶望を経験したからです。毎日、どのようにして赤ちゃんを殺すかを考えていました。透明なビニール袋では見つかるから、黒色の大きな30リットルのビニール袋を買っていました」
「妊娠検査薬の結果を見たとき、どうしようもなく、親にも打ち明けられず、人生のどん底に落ちました。まだばれていない、まだばれていないと思いながら、日々が過ぎ、最終的には赤ちゃんを遺棄してしまう。誰にも言えず、ずっと一人でその重荷を抱えていました」
美咲さん自身は、慈恵病院で様々な選択肢を説明され、最終的に内密出産を選びました。誰にも相談できない苦しみを痛感しているからこそ、他の人々にも勇気を持って相談することを強く勧めています。
「ただ生きているだけでも価値があると思います。2人とも生きていて良かったと、今でもずっと思っています。周りの人に言えなくても、電話だけでもいいから、一度、慈恵病院に電話してみてください。彼らは絶対に助けてくれます。もう悩む必要はないんです。絶対に最後まで諦めないでください」
KAB熊本朝日放送では、5月25日(土)午後1時30分からKAB35周年特別企画「いのち つないで」を放送します。国内で唯一「内密出産」に取り組む熊本市の慈恵病院。孤立した女性たちの背景にあるものとは何か。内密出産当事者の証言を通じて、「いのちをつなぐ」というテーマを深く掘り下げます。放送終了後はTVerでも見逃し配信を行います。