[2025/11/13]最終更新。茨城県龍ケ崎市が、大きな変革の時を迎えています。2025年4月に施行される「第3次都市計画マスタープラン」を新たな青写真とし、市内の風景は今後数年で劇的に変わる可能性があります 。特に「旧城南中学校跡地」に計画される大和ハウス工業による大規模複合商業施設は、その象徴と言えるでしょう 。
しかし、その一方で、JR龍ケ崎市駅前の「道の駅」計画は、その内容をめぐり多様な意見も出ています 。
本記事では、地域開発ジャーナリストの視点から、これら注目プロジェクトの最新動向と、行政計画の裏にある戦略的な「狙い」を徹底的に分析・解説します。
【全体概要】龍ケ崎市の主要再開発プロジェクト一覧

龍ケ崎市内で進行中の主要な再開発および都市計画の動向を一覧表にまとめます。これらのプロジェクトは、商業、産業、観光、防災といった複数の側面から、都市の「質的向上」を目指す市の戦略を反映しています。
| プロジェクト名 | カテゴリ | 概要 | 最新動向・注目点 | 完成予定(見込) |
| 第3次都市計画マスタープラン | 全体計画 | 2040年の目標人口を6万6,000人とし、「安全・安心」と「住みよさ」を追求 。 | 2025年4月施行 。産業基盤として「つくばの里工業団地」の拡張を検討 。 | 計画期間:2040年まで |
| 旧城南中学校 跡地活用 | 商業施設・跡地活用 | 大和ハウス工業による複合商業施設 。スーパー「ロピア」、家具「ニトリ」、ボルダリング施設など7棟を建設予定 。 | 2025年12月議会で契約へ 。災害時に炊き出し可能な「かまどベンチ」など防災機能を併せ持つ点が最大の特徴 。 | 2027年度末以降 |
| JR龍ケ崎市駅周辺(道の駅) | 駅周辺・観光 | 国道6号線沿いの道の駅計画。2025年度より事業再開の方針 。 | 計画が「トイレ・駐車場のみ」とされ、物販・飲食施設がないことに一部で批判も 。牛久沼広域活用の「第一歩」という側面が強い。 | 未定 |
| 関鉄竜ヶ崎駅周辺(北地区) | 駅周辺・中心市街地 | 「竜ヶ崎駅北地区」を新都市拠点として位置づけ、「まちなか再生」を推進 。 | 既存商店の支援やイベントによる「回遊性」の向上がテーマ 。 | 進行中 |
| サプラスクエア | 商業施設(既存) | 市内の中核的ショッピングセンター。 | 2025年10月4日「ヤマダデンキ」がオープン 。直前に大規模小売店舗立地法の「変更届出」あり 。 | 完了(リニューアル) |
| 龍ケ崎市森林公園 | 公園・リニューアル | 大規模公園のリニューアルプロジェクト。市のマスタープランの重点施策の一つ 。 | 2025年3月22日にグランドオープン済み 。 | 完了 |
2025年新マスタープランが示す龍ケ崎市の未来図
市内で進むすべての再開発の基盤となるのが、2025年4月から施行される「龍ケ崎市 第3次都市計画マスタープラン」です 。この計画は、市が「成熟段階にある」 という現状認識のもと、人口の急激な拡大を目指すのではなく、都市の「質」を高める方向へと明確に舵を切る、重要な方針転換を示しています。
目標は2040年「人口6万6,000人」”拡大”から”維持・質的向上”へ
新しいマスタープランの基本理念は「『安全や安心』と『住みよさ』を実感できる都市づくり」と定められました 。その上で、計画期間の終期である2040年の目標人口を「6万6,000人」としています 。
この数値設定は重要です。現在の龍ケ崎市の人口(約7万5,000人前後)と比較して、将来的な人口減少を現実的に受け入れつつ、その減少幅を緩やかにし、6万6,000人ラインで「維持・安定」させることを目指す「持続可能性(サステナビリティ)」重視の戦略です。
つくばエクスプレス(TX)沿線のような人口「増加」フェーズとは異なる、龍ケ崎市のような「成熟した」都市 にとって、再開発の目的は「新規住民の大量誘致(拡大)」ではなく、「既存住民の生活満足度向上(質的向上)」と「市外への流出抑止」が第一義となります。後述する旧城南中学校跡地のような生活利便施設の整備や、龍ケ崎市森林公園のリニューアル は、まさにこの戦略を具体化するものです。
経済の核「つくばの里工業団地」の拡張計画
住民の「住みよさ」を支えるには、安定した「雇用」と市の「税収」が不可欠です。その経済基盤強化策として、マスタープランは「つくばの里工業団地」とその周辺を産業拠点と位置づけ、計画的な区域の「拡張を検討する」と明記しました 。
これは、龍ケ崎市が持つ「東京都心や成田空港に近接する位置的な強み」 を最大限に活かす、B2B(企業間取引)領域での現実的な経済戦略です。
龍ケ崎市の再開発は、旧城南中跡地のような「商業(B2C)」で生活の魅力を高め、住民の流出を防ぐと同時に、「産業(B2B)」すなわち工業団地の拡張で経済的な足腰を鍛えるという、両輪で進められていることが分かります。
【商業施設】市内最大級の開発と既存施設リニューアルの最新動向
新マスタープランが掲げる「住みよさ」を具体的に形にするのが、商業施設の動向です。最大の注目は、学校跡地にゼロから生まれる「大和ハウス」の複合施設。一方で、既存の中核施設「サプラスクエア」も大型テナントを導入し、市内の商業地図が大きく動いています。
《最注目》旧城南中学校跡地・大和ハウスの複合商業施設計画

2022年3月に閉校した旧城南中学校の広大な跡地(約2万9,891平方メートル)を利用する、市内でも最大級となるプロジェクトです 。市が実施した公募型プロポーザルの結果、大和ハウス工業株式会社茨城支店が優先交渉権者に選定されました 。
大和ハウス工業茨城支店(つくば市)は、旧城南中学校跡地(龍ケ崎市1736番地外)の約3haにおいて、複合商業施設を整備する。提案価格は2億7993万6000円(税抜き)。施設の内容がスーパーマーケット、物販店舗、飲食店、ボルダリングを含むサービス施設となる。2027年秋の開業に向け、25年度に売買契約を結ぶ方針。年明け2月には地元説明会を開催する予定だ。
市はこのほど、跡地利活用事業の優先交渉権者として、公募型プロポーザルにより大和ハウス工業茨城支店を選定。対象地が旧城南中学校(龍ケ崎市1736番地外2筆)の2万9884・49㎡となる。25年度に用途地域変更などの手続きを経て、売買に係る本契約を締結。オープン時期については27年度秋を見込む。
事業では既存の校舎棟などを解体し、新たに複合商業施設を整備する。内容としてはスーパーマーケット、小売店、物販店舗、飲食店およびボルダリングを含むサービス施設となる。ボルダリング施設についてはフィットネス機能を有し、多世代が利用できる施設を想定。隣接の城南ショッピングセンター(龍ケ崎市1713)とは、店舗構成の重複を避けるとしている。
現況の区域区分が、市街化区域(第一種中高層住居専用地域)となる。市では今後、第二種住居地域への変更を進めていく。建物については、校舎がRC造3階建て、延べ床面積6734・01㎡。1994年度建築。体育館はRC造3階建て、延べ床面積2989・38㎡。97年度の建築。プール付属棟(RC造、A125㎡)や自転車置き場(S造、A262㎡)などが残存している状況。引用 日本工業経済新聞社
出店テナント判明「ロピア」「ニトリ」にボルダリング施設も
計画案によると、建物はS造平屋建て、延床面積8,582平方メートル、合計で7棟が整備される予定です 。 判明した主なテナント構成は以下の通りです。
- 東側(お買い物ゾーン): 家具・インテリア小売大手の「ニトリ」、および人気のスーパーマーケット「ロピア」が出店予定とされています 。
- 西側(飲食・アクティビティゾーン): 複数の飲食店に加え、「ボルダリング・フィットネス」などのスポーツ施設と、隣接するアスレチック広場が計画されています 。
コンセプト「お買い物」と「アクティビティ」の2ゾーン構成
このプロジェクトの特徴は、敷地を「お買い物ゾーン」と「飲食・アクティビティゾーン」という2つのエリアに明確に分けている点です 。これは、単にモノを買う「買い物」の場としてだけでなく、Eコマース(ネット通販)では代替できない「体験」や「活動(アクティビティ)」を家族や若者が楽しめる、現代的な「体験型消費」を核に据えた商業施設開発のトレンドを強く反映しています。
防災拠点としての機能:「かまどベンチ」と一時避難所
本計画で最も特筆すべき点は、高度な「防災機能」を併せ持つことです。飲食・アクティビティゾーンには、災害時に炊き出しが可能な「かまどベンチ」が整備されます 。さらに、532台を確保する計画の駐車場は、災害時の「一時避難場所」としても利用できるよう調整が進められています 。
この背景には、市の明確な方針があります。もともと学校(旧城南中学校)は市の指定避難場所でした 。市の「学校跡地活用方針」では、たとえ民間事業者へ売却・貸付 する場合でも、「地域防災の拠点施設であること」を踏まえ、その「機能が損なわれないよう努める」ことが明記されています 。
大和ハウス工業の提案(かまどベンチ、避難所駐車場)は、この市の基本方針を完璧に満たすものです。市は土地を売却して約2億8千万円(税抜)の財源を得る と同時に、民間の力で「新しい形の防災拠点」を維持・整備させることに成功しました。これは、全国の自治体が抱える公共施設の老朽化と維持コスト問題に対する、「公民連携(PPP)」による一つの模範解答と言えます。
最新スケジュール:2026年解体着手、2027年度末に新築工事見通し
スケジュールについては、2025年12月議会での本契約締結を目指して市と大和ハウス工業が協議を進めています 。契約締結後、2026年の年明けにも既存校舎の解体工事に着手する方針です 。
当初は2027年秋のオープンを目指す とされていましたが、最新の報道では複合施設の新築工事は「2027年度末ごろになる見通し」 とされており、実際の開業は2028年以降になる可能性が示唆されています。
既存商業施設のアップデート
市内最大級の新規開発が進む一方で、既存の商業施設も変化を続けています。
サプラスクエア:2025年10月「ヤマダデンキ」オープンと「変更届出」の動き
市内の中核的商業施設である「サプラスクエア」も、大きな動きを見せています。2025年10月4日、「ヤマダデンキテックランドNew龍ケ崎店」が新たにオープンしました 。
注目すべきは、その直前の2025年9月17日付で、「大規模小売店舗立地法に基づく変更の届出」が告知されている点です 。
この一連の動き(9月の法的手続き、10月の新アンカーテナント開業)は、偶然ではありません。この時期は、まさに競合となる「旧城南中学校(大和ハウス)」プロジェクトの計画詳細が具体化し、2025年12月の本契約が目前に迫っていた 時期と完全に一致します。
これは、サプラスクエア側が、数年後に「ロピア+ニトリ+体験施設」という強力な競合が出現することを見越し、先手を打って自施設の魅力を高め、顧客基盤を固めるための「リニューアル(防衛投資)」を実行したと分析するのが妥当です。
公園リニューアル:龍ケ崎市森林公園、2025年3月にグランドオープン
新マスタープラン でも「大規模公園のリニューアル」は重点施策とされています。その具体例として、「龍ケ崎市森林公園」がリニューアルされ、2025年3月22日にグランドオープンを迎えました 。これも「住みよさ」の実感 を高めるための施策であり、商業開発と公共的な開発が両輪で進んでいることを示しています。
【駅周辺】変貌する2つの「龍ケ崎」駅
龍ケ崎市には、JR常磐線の「龍ケ崎市駅」と、関東鉄道竜ヶ崎線の終着駅である「竜ヶ崎駅」という、2つの主要駅があります。市は、この2つの駅に対し、それぞれ全く異なるアプローチで再開発を進める「二正面作戦」を採っています。
JR龍ケ崎市駅:2025年度再始動の「道の駅」計画
JR駅は、2020年春に「佐貫駅」から「龍ケ崎市駅」へと駅名を改称 し、市の「玄関口」としてのアイデンティティを明確にしました。市の国土強靱化計画においても、緊急輸送路ネットワークの結節点として防災機能の強化が図られるなど、広域的なハブとしての役割が期待されています 。
計画の「縮小」と背景にある批判
現在、この駅周辺で焦点となっているのが「道の駅」計画です。一度は停滞していましたが、2025年度から事業が再開される方針が示されました 。
しかし、その中身が「飲食や物販などを置かずにトイレなどの休憩施設と駐車場の整備だけ」というものだったため、「ワクワクするような道の駅にほど遠い」「夜などは変にたまり場的になってしまう」といった批判的な意見も出ています 。
インサイト:牛久沼の広域利活用(5市1町連携)という真の狙い
では、なぜ市は批判を受けながらも、この計画を進めるのでしょうか。その答えは、より壮大な「牛久沼の広域利活用」という真の目的にあります。
批判的な意見を掲載した資料 も、同時に「市長も公約に掲げている牛久沼トレイル(周遊道路)の整備」の必要性に言及しています。この牛久沼の利活用は、龍ケ崎市だけでなく、取手市、つくばみらい市、つくば市、牛久市、河内町の「5市1町」がタッグを組む必要がある、非常に大規模な広域連携事業です 。市の新マスタープラン も、「周辺自治体などと連携し、牛久沼周辺地域の魅力向上」を明記しています。
つまり、市はまず、龍ケ崎市単独で完結できる「トイレと駐車場」(=道の駅の最小構成要件)の整備を2025年度から先行して着手する ことで、この壮大な広域連携プロジェクトの「拠点」となる場所を確保しようとしています。
結論として、JR龍ケ崎市駅周辺開発の真の姿は、批判されている「小さな道の駅」そのものではなく、それを「足がかり」とした「牛久沼広域観光開発」という、より大きなプロジェクトの「第一歩(フェーズ1)」であると読み解くことができます。
関鉄竜ヶ崎駅:「竜ヶ崎駅北地区」新都市拠点開発構想
一方、関東鉄道竜ヶ崎線の終着駅である「関鉄竜ヶ崎駅」周辺は、伝統的な中心市街地であり、「まちなか再生」 の拠点とされています。市は「竜ヶ崎駅北地区」を「新都市拠点開発エリア」と位置づけ、土地の高度利用を目指しています 。
「まちなか再生」と回遊性の向上がテーマ
このエリアの課題は、歴史的資源や商店は存在するものの「中心市街地の利用者の回遊性が低い」こと です。そのため、開発の重点は、大規模なハコモノ建設よりも、市の施設「まいん」やにぎわい広場などを活用したイベント開催、既存企業の支援 に置かれています。
この戦略の対比は鮮明です。
- JR龍ケ崎市駅(ハブ): 工業団地 や広域観光(牛久沼) といった「市外」と繋がる「玄関口」としての機能が強化されています。
- 関鉄竜ヶ崎駅(コア): 伝統的な中心市街地として、「市内」の経済循環やコミュニティ(まちなか再生)の「核」としてテコ入れが図られています。
市は、新しい玄関口と伝統的な中心地のどちらか一方を切り捨てるのではなく、両方の特性を活かして都市の魅力を維持・向上させようとする、バランスの取れた「デュアルコア(二核)」戦略を採っているのです。
【跡地活用】市の資産を未来につなぐ基本戦略
今回の「旧城南中学校」の事例は、龍ケ崎市の「跡地活用」における基本方針を体現したものです。市は、少子化などで今後も発生が予想される学校跡地などの「遊休資産」を、明確な戦略のもとに活用していく方針を定めています。
閉校跡地をどうするか?:市の基本方針と「民間活用」
市は「学校跡地活用方針」を策定しており 、そこでは跡地は「持続可能なまちづくりを推進するうえで重要な課題」とされています。活用方策として、公共施設として転用するだけでなく、「売却・貸付等」も早期に検討すべきと明記されています 。
実際、2017年の都市計画マスタープランの時点で、「民間での活用も視野に入れながら」有効活用を図る方針が示されていました 。
事例研究:旧城南中プロジェクトに見る「防災機能」と「民間売却」の両立
ただし、市の方針は単なる「民間売却」による財源確保だけではありません。同方針の「配慮事項」には、極めて重要な一文があります。
それは、「学校施設は避難所になっているなど、地域防災の拠点施設であることを十分踏まえる」こと、そして「民間事業者への売却や貸付であっても防災への協力・配慮など一定の条件を付す」ことです 。
旧城南中学校のプロジェクトは、まさにこの市の基本方針(「①民間へ売却・貸付OK」かつ「②ただし防災機能は維持せよ」)という、一見矛盾しかねない2つの要求を両立させた「成功事例第1号」と言えます。
大和ハウス工業の案 は、「①土地の買い取り(約2.8億円)」 と「②かまどベンチ・一時避難所駐車場の整備」 を同時に実現しています。
これは、龍ケ崎市の「跡地活用方針」が単なる理想論ではなく、実行可能な戦略であることを証明しました。今後、市内で発生するであろう他の学校跡地についても、この「旧城南中モデル」(=民間売却による財源確保と、民間による防災機能の維持)が踏襲されていく可能性は非常に高いと言えます。
まとめ:新陳代謝を続ける龍ケ崎市の「今」と「これから」
龍ケ崎市の再開発は、単一の巨大プロジェクトに依存するものではなく、2025年の新マスタープラン という明確な青写真のもと、多角的なアプローチが同時に進んでいる点が特徴です。
- 商業(生活): 「旧城南中跡地」 や既存の「サプラスクエア」 で、市民の「住みよさ」を向上させます。
- 産業(経済): 「つくばの里工業団地」 の拡張で、市の経済基盤を強化します。
- 観光(交流): 「JR龍ケ崎市駅」と牛久沼広域連携 で、市外からの交流人口を狙います。
- 地域(伝統): 「関鉄竜ヶ崎駅」周辺の「まちなか再生」 で、中心市街地の活力を維持します。
特に、旧城南中学校跡地の開発は、土地の売却益を得ながら「防災機能の維持」 という難しい課題を、民間の力を活用して両立させる先進的なモデルを示しました。
人口減少という「成熟期」を迎えた都市が、いかにしてその魅力を維持し、質的な向上を遂げていくか。龍ケ崎市の挑戦は、その一つの答えを示そうとしています。
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龍ケ崎市都市計画マスタープランの詳細は、コチラ で確認できます。(2025(令和7)年4月)




