津田沼という街は今、かつてない「分断」の時を迎えています。
2024年秋に惜しまれつつ閉店した「イトーヨーカドー津田沼店」。その跡地活用がついに正式決定し、京成電鉄とイオンリテールによる新たな商業施設への再生が動き出しました。これは間違いなく、駅北口エリアにとって希望の光です。
しかし、その明るいニュースの裏で、津田沼の未来を根底から覆しかねない事態が進行しています。街の将来像(グランドデザイン)の中核であったJR津田沼駅南口(モリシア跡地)の巨大再開発プロジェクトが、建設費高騰の波にのまれ「事実上の一時凍結」という苦渋の決断を迫られているのです。
本記事では、2025年12月現在の最新情報に基づき、イオンによる「北口・挟撃戦略」の全貌と、南口で起きている「再開発の停滞」がもたらす街への深刻な影響を徹底分析します。
【光】北口の逆襲:イオンと京成が描く「若者奪還」のシナリオ

まずは明るいニュースから紐解いていきましょう。旧イトーヨーカドー津田沼店が入居していた「津田沼12番街ビル」。2025年4月の京成電鉄による完全子会社化を経て、建物のオーナーとなった京成電鉄は、パートナーとして「イオンリテール」を選びました。
なぜ「またイオン」なのか?計算されたドミナント戦略
「近くにイオンモールがあるのに、またイオン?」と疑問に思う方も多いでしょう。しかし、これこそがイオンの緻密な計算です。新京成線を挟んで向かい合う2つの施設で、明確な「客層の棲み分け(セグメンテーション)」を行う計画です。
| 施設 | 既存:イオンモール津田沼 | 新規:旧ヨーカドー跡地 |
| ターゲット | ファミリー層・主婦層 | Z世代・ミレニアル世代(10〜30代) |
| 役割 | 「日常」の生活インフラ | 「非日常」のエンタメ・トレンド発信 |
| 核テナント | 総合スーパー、生活雑貨 | シネマコンプレックス、ライブホール |
特筆すべきは、新施設への「シネマコンプレックス(イオンシネマ)」と「ライブイベントホール」の導入計画です。
これまで津田沼エリアの若者は、映画やトレンドのショッピングを求め、船橋の「ららぽーとTOKYO-BAY」や都内へと流出していました。イオンはこの新施設を「若者が遊べる場所」として再定義し、流出していた需要を津田沼駅前に引き戻そうとしています。これは単なる居抜き出店ではなく、津田沼におけるイオンの支配権を盤石にするための戦略的な「挟撃作戦」なのです。
【影】南口の誤算:モリシア跡地再開発「一時中断」の衝撃
一方で、JR津田沼駅南口に目を転じると、状況は深刻です。津田沼再開発の「本丸」とも言える「津田沼駅南口地区第一種市街地再開発事業(旧モリシア津田沼・津田沼公園エリア)」が、大きな壁に直面しています。
2031年の夢、白紙へ
野村不動産が主導するこのプロジェクトは、52階建ての超高層タワーマンション(約1,000戸)と、新たな習志野文化ホールを含む複合施設を建設する壮大な計画でした。しかし、2025年に入り、事業者側から習志野市に対し「事業の一時中断」が通達されました。
最大の要因は「建築コストの暴騰」です。
資材価格の高止まりと深刻な建設業の人手不足により、当初の予算では採算が全く合わない事態に陥りました。2031年とされていた竣工時期は絶望的となり、スケジュールの見直しは必至です。閉館した旧モリシアの建物の一部再稼働も検討されるなど、現場には「長期戦」の様相が漂っています。
「片肺飛行」となる津田沼の再開発
この南口の停滞は、北口のイオン新施設計画にも影を落とします。街全体の魅力向上(街力の底上げ)があってこそ、商業施設の集客力は最大化されるからです。「北側だけが新しくなり、南側の巨大な一等地が廃墟化、あるいは工事中のまま数年放置される」というアンバランスな状態は、津田沼という街のブランド価値にとって大きなリスク要因となります。
分析:この「停滞」がもたらす意外なメリットと課題
しかし、物事には裏表があります。筆者は、南口再開発の遅れが津田沼にとって「怪我の功名」になる可能性もわずかながらあると考えています。それは「交通インフラの崩壊」を先送りできたという点です。
「開かずの踏切」問題への猶予期間
津田沼周辺、特に京成津田沼駅付近の「谷津第五号踏切」は、ピーク時に1時間中52分も閉まるという致命的な渋滞ポイントです。もし予定通りに南口にタワーマンションが完成し、数千人の住民と商業施設の利用客が一気に押し寄せていたら、周辺道路は完全に麻痺していた可能性があります。
再開発が足踏みしている今こそ、行政は抜本的な道路整備や立体交差化の議論を前に進めるべきです。この「猶予期間(モラトリアム)」を活かせるかどうかが、10年後の津田沼の住みやすさを決定づけます。
結論:津田沼は今、投資と居住の「見極め」の時
2025年末現在、津田沼は二つの異なる時間を生きています。
- 短期・中期(北口): イオン新業態による若者文化の復活と賑わいの創出(確実性が高い)
- 長期(南口): コスト高によるプロジェクトの凍結と、不透明な完了時期(不確実性が高い)
かつての「津田沼戦争」と呼ばれた商業激戦区の時代を経て、街は今、「住む街」としての質を問われるフェーズに入っています。北口のイオン再開発への期待を持ちつつも、南口の動向と交通インフラの改善策を冷静に注視する。それが、これからの津田沼と付き合う上で最も重要なスタンスとなるでしょう。
「街の変化ナビ NEXT」では、引き続き南口再開発の再開の兆候や、イオン新施設のテナント詳細が判明次第、速報としてお届けします。


